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sailor 貴帆 北田浩  Never Stop The Challenge

2024-01-05

小笠原レース「船上のリアル」 vol.4

石川レース委員長撮影

第七話 「予期せぬお迎え」

レース委員会のメンバーは全員でのお迎えであった。

そしてそこには島の人々が出迎えてくれていた。

このレースを楽しみにしている島民が多数いるのだと改めて実感した。

鈴木保夫さんから手渡された冷えたビールとシャンパンはメチャ嬉しかった。

私達3人は全員船内泊の予定であったが、鈴木保夫さんの計らいでお嬢さん2人の宿を確保して頂けた。

宇田川は船酔い&初めての陸酔いなのだろう、レース委員会のメンバーに支えられて先に吉富と共に宿に移動した。

何か食べたいとの事らしく船内にあるドライフードとかリンゴを宿に届けてやった。

有り難いことに私もシャワーを貸して頂いた。(吉富の入浴の後だったが。笑い〜)

鈴木さんは用意周到に色んな準備をして迎えてくれたのだ。

この夜私は1人で船内泊をした。

貴帆の係留にはあまり適していない岸壁で干満による影響を観察しながら冷えたビールで朝まで過ごした。

朝にはザックリと船内の片付けと点検を終えていた。

宇田川はセールバックにも嘔吐していたようで、自分で洗浄させるべく船内から引き出してピットに置いた。

ポートのラダーにスピンシートが絡んで引いても抜けてこない。いつから??

フィニッシュ時に迎えてくれたひとりの関さん(私の友人で岩間さんの親友とのことで後になってわかった地元漁組の副組合長)が早朝から潜水作業して解いてくれた。嵐の中で酷いパンチングを繰り返し今まで聞いた事の無い嫌な音がしていたのでボトムの点検もしてもらった。バウに縦の筋が見えるらしい。船底塗装をして船台のパッドにあげておいた時についた塗装ムラだと思うが、浮沈構造体の真下で漏水も確認出来ないので上架点検しないと判断が出来ない。小笠原から浦賀迄の帰りのキャンプへの不安は残った。

そう回航では無いのだ、彼女らのオフショアコースの卒検キャンプなのだ。

彼女らは音と振動には無頓着すぎるのが気になっていた。

もう一つ大事には至らなかったが深刻な問題があった。レース中盤でまだ吹き上がる前の出来事であったが、あえて煙幕事象と呼ぶことにしよう。エンジンブロアー由来の火災未遂が発生していた。ロールコールでは報告済みであったが2人に心配させないように大きな問題では無いという事にしておいた。実は重大インシデント寸前の事象が発生していた。

貴帆のエンジンルームには建造当時からブロアモーターが設置されていなく、レース中の充電でオーバーヒート気味になる事からフランスから連れ出す直前にブロア設置工事をしていた。給気口も排気口もピット内キャノピー下にある椅子の横に左右設置されている。事前に説明をしていなかったのだが、吉富がオフで休んでいる際にポート側の給気口をカッパで塞いでしまっていたのだった。ヘアドライヤーの給気を手で塞げば過負荷加熱で燃えるのと同じ現象が起きてしまった。

何か焦げ臭い感じがしたが吉富も宇田川も気付かずエンジンを回し充電していた。怪しいと思いBOXの蓋を開けたところモクモクと煙が広がり配線が燃えている気配を感じたのでBOXを閉じ窒息消火状態を作ったのだ。消火器を使うかどうかの判断は微妙だった。幸いブロア系の配線の被覆のみ燃えて鎮火したようだったが…

しばらくすると裸になった配線が振動でショートしてブロアが回り出していた。動作スイッチを切っても止まらない。急遽ニッパで裸配線を切断し止めた。

ボックス内の煙が治った後に開けて点検してみると同じ配線ルートで走っている航海計器のディスプレイの配線とセカンドGPSヘッドの配線の外皮が焦げている。これは動作に支障は無さそうだが全交換が必要な状態。フランスに送って修理してもらう他に方法はないな。オルタネーターに熱が回ったような痕跡がある。エンジン回転計があるBOXに延びている多心線のハーネスは辛うじて生きているが全交換必要。エンジンは始動する事ができたので入港着岸は可能だが発電量が20アンペアまでしか上がらない。コイルが溶けかかっているのかな?ボルトメーターの動きも怪しいから配線かメーターがイカれたか?

カテゴリ2のエマージェンシー海水ポンプ用のソケットに電流が来ていない。配線溶融とヒューズが切れている。バッテリーに直結すればポンプは動くから有事には使えるのだが。

スタート前にインペラーを交換したのだが水の出がおかしい。フランスで備蓄4年物だったから固くなっていたのか?

数々の損傷の状況に目眩がした。

小笠原でしかも連休に入る直前でエンジン屋、電気屋が捕まるのか?

関さんが人脈を駆使して業者さんをかき集めてくれた。完全復旧は部品も揃わない事から不可能ではあったが、焼けた配線は仮配線で全て張り替えた。切れたフランス製のヒューズは似たような物を車から発掘してきてもらった。やはりオルタネーターも被害があったのか発電量は低い。

通常は50アンペア以上の発電が可能なのだがとりあえず20アンペアほど発電しているようだ。(浦賀に戻り点検したところ残念ながら継続使用は困難という事で新品交換となった)幸い貴帆にはハイドロジェネレータという水力発電機を積んであるので帰路の充電問題は何とかなりそうだった。

ここまでの突貫復旧工事で張り替えた焦げた配線はプラスチモの青バケツで半分もあった。

焦げた配線
焦げた配線
配線取り替え後
配線取り替え後

重ね重ね関さんへの感謝と献身的な島の技術者へ敬意を表するものです。

果たして2人のお嬢さんは事の深刻さについて理解していたのかな?

東京に戻ったらいつか話してみたいと思う。

あ、小笠原も東京か?

関さんご夫妻と
関さんご夫妻と

第八話「遡ってレース前」

レース前の出来事を話しておこう

本格的な外洋レースが初めての2人にはインスペクション、OSR、医療材料、飲食料、搭載品等々、初めての体験が多かったと思う。

準備は出来るだけ2人に関わってもらい折角の機会をより有意義に学習してもらいたいと思ったので説明するのが面倒だなと思いながらも細かいことも出来るだけ作業してもらうよう仕向けた。

私は船内に2度ほど泊まり込みオーバーナイトのシュミレーションをしながら必要なものを2年ぶりのレースにむけて備えた。

吉富は長期休暇中であるが大阪在住であったので、航海士という事もありドラフト3メートルの貴帆に万一緊急入港が必要になった場合の避難港をピックアップするように命じた。彼女にとっては簡単な事だろうと思ってはいたが万一準備出来ていなければと思い、また艇長会議でのセキュリティブリーフィングでも各艇に説明するやもしれないと思い鈴木保夫さんに相談して準備をしていた。

宇田川には吉富が参加出来ないような作業や買い物を手伝ってもらって準備を進めていた。彼女は買い物の段取りが凄く良いのだ。しかしその後に何とも言い難い光景を目にする事になった。

フランスから貴帆を運ぶ際にロリアンのベースキャンプを引き払い、そこに保管していた予備品類を貴帆に詰め込めるだけ積み込んできた荷物からネジ一個、スパナ一本までもこのレースには不要な物を徹底的に下ろしていた。

出港前日に最後の点検でバウの水密区画からスターンのエスケープハッチに至るまで全て点検し、既に積み込んでいる私物の着替え類のボリューム感まで確認した。

スターンのエスケープハッチに向かう水密ハッチをクローズしようとした際に見慣れない黒く細長い布製のケースのような物が目に入った?

なんだっけな?

ケースの口を開けてびっくり玉手箱、なんと釣竿発見!

真乃だな?

スタートの朝に再度私物の量を確認したところやけに重い黒いバックがあった。リール類の釣り道具?

自称アングラーというほどに釣り好きな事は聞いていたが、私は何日も時間をかけて荷物を下ろし軽量化を進めていたのに絶句!

まあ良いレースが出来たとしたらおまけで許してやろうか…

釣りに行きたいとは言っていたが機材レンタルで岸壁釣りか磯釣りくらいかと思っていたが、釣船まで予約済みとか・・・・

フィニッシュ後に鈴木保夫さんに溢したところ、良く許しましたねと言われ苦笑以外に返す言葉が無かった。船を浦賀に戻すまでが今回のミッションであるのは周知のこと、帰路の貴帆に乗ることができないとか、何らかの事情で私までも身動きできなくなる可能性もあるわけだから、そこを鈴木さんは考えての言葉であった事は容易にわかる。しかも吉富を誘って二人で行くというからたまげた。

釣果は良かったらしいが、関さん(漁組副組合長)に魚の引き取り先まで相談すると言う思考回路には火星人と言われる私も真っ青になってしまった。

今後のOcean Boot Campからは釣りのメニューは入れないようにしよう。

また釣りの次は島内をドライブするとかで・・・・気をつけていってらっしゃい。

浦賀ヴェラシスに帰るまでは忍の一字に徹することしか方法が思いつかなかった。

当初小笠原滞在中は全員船内泊をするとの事であったので遊びに行く体力が戻ったのなら船泊しましょうかの一言が欲しかったな。

私は昭和の小姑か?

ウエザーギアについて

さすがに24、25歳のお嬢さんに高価なカッパを持参しろとは酷なのでそこそこ使えるであろう代物を準備して貸与する事にした。後に続くcamperも使えるだろうと考えた。なんとそのカッパを着て釣りに行ってたとさ〜

靴は高価ななんちゃらOceanブーツなどでなくともせめて長靴くらい準備するだろうと特に指示はしなかったのだが、ワークマンのハーフブーツを持ってきた。2人ともである。ワークマンが悪いと言っているのでは無い、実際初期の貴帆メンバーは食品加工場で使うソールが生ゴムの白い長靴を使っていた時期もあった。

これではトラウザーの裾をダクトテープで巻き付けなきゃ海水入るだろうに舐めてない?

いやいやディンギー乗りは濡れ足でも平気なのかもしれないと自身に言い聞かせた。

そう言えば、その高価なカッパを着て船釣りに行ったらしい。どうもレース中に尻から染み込みがあったと後に報告があった。

その後そのカッパの購入先に該当するカッパを送り返したが未だ何の対応もない。

マイペースなお嬢さん二人
マイペースなお嬢さん二人

(第9話に続く)